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空即是色 idd.txtを読んでみて(感想文)

2005年 04月30日

「webAGORA.txt」の影響か卒制の為か、
今までの大学生活を振り返る機会が多くなってきた。
自分には非常に珍しいことに、この学科に愛着を感じているのも確かなのだ。

また、入学当初から(たしか入学以前にも)、「情報デザインって何…?」とずっと考え続けているのだけど、今も相変わらずに頭に浮かぶのは疑問符が多い。
アートとデザインが混在するこの学科には、この環境でしか得られないものがあると多くの先達、同期の人たちと話をしていて強く感じている。
では、その「情報デザイン学科でしか得られないもの」とは何だろう…?
学科外(身近にはグラフィックデザイン学科、プロダクトデザイン学科など)を見渡した時に感じる情報デザイン学科と他の学科との違いや、情報デザイン学科に対して感じる違和感はいったい何だろうか…?

情報デザイン学科の設立当初に、学科の設立に関わった先生方の手によって(その当時の)未来の情報デザイン学科像や理念や思いがまとめられた「idd.txt」という本がある。この本を読んでいて眼に止まった言葉が幾つかあり、それらは今も変わらず情報デザイン学科をよく表しているように感じた。

幾つかピックアップしながら、自分の考えをだらだら述べてみようと思います。
(以下長文でございます)

まず入学当初の僕の情報デザイン学科像は次のようなものでした。

「情報デザイン」といわれたときに、これが多摩美術大学に新設された学科の名前だと知らない人は、このことばが何をさしていると思うであろうか?…(中間部省略)…実は、当学科の関係者の間でも、考え方はさまざまであり、統一見解やコンセンサスはまだできていないといってよいであろう。「これはどんな学科か」と聞かれる毎に、私が答えているのは、「コンピュータを使って、いろいろなデザインのできる学生を育てるところ」だということである。

--- 石田 晴久 先生

この説明は情報デザイン学科の性質を端的にあらわしているが、聞き手のデザインに対するリテラシーによっては、情報デザイン学科とは「インターネットなどのデジタルメディアや最新の技術を利用したデザイン/アートを学ぶ場」であると読み取ってしまう危険性を孕んでいる。学科外(果は学校外)であってもコンピュータをクリエーションに活用する例は当たり前になりつつある近年において、このことだけを情報デザイン学科と他の学科の違いとして掲げるには乏しいことが予見できただろうから、必ずしも「コンピュータありき」というのが情報デザイン学科の本質ではなかったと思われる。

次に引用する言葉こそ、情報デザイン学科がやろうとしていることをよく言い表していると思う。

私たちが構想する次世代のデザイン教育のポイントは次の2点である。ひとつは、描く対象を「物」から「活動」に広げることである。もうひとつは、作り上げる対象を、人工物自体の「形」にとどめるのでなく、活動の「可能性」に拡張することである。

--- 須永 剛司 先生

上記の須永先生の言葉から、情報デザイン学科では「人間の活動」が重要であることがわかる。そして、情報デザイン学科に身を置く者であれば、「アフォーダンス」「ユーザー中心」「ユーザヴィリティ」という言葉を幾度となく耳にすると思うのだが、これらは生活の中心には人間が居て、人間の活動を適切にフォローすること、よりアクティブにすることを支持している言葉だ。

また、今までのデザイン/アートに対して疑問を投げかけ、これからのデザイナー/アーティストが持つべき意識を学生に伝え、そして社会に浸透させることを強く意識しているのもこの学科の特徴だと思う。そのことは以下の言葉からよく感じられる。

取るに足らないことをあたかも秘伝のように見せかけ、デザインやアートにいつわりの神格化や虚像を持ち込む癖は、もうそろそろおしまいにしたいものです。また普遍性と一般性を取り違え、あやまった抽象化で語りえないものを語ろうとしてしまう学者の奢りも、醜いものです。これからのデザイナーがまず持っておくべき基礎体力は、さまざまな経験のなかから共通部分としての普遍性を的確につかみ、それをランゲージとして記述/分節することでユニバーサルに使用/総合/共有する能力だと、僕は考えています。

---久保田 晃弘 先生

先ほど「コンピュータありき」がこの学科の本質ではないと書いたが、「コンピュータ」と呼ばれるデジタル機器の発展が情報デザイン学科が生まれる大きな理由となったこともまた事実なのだろう。そのことは以下の言葉から分かる。

人工物と使用者を適切に”つなぐこと interface”がデザインであるとすれば、昔も今もデザインの役割は変わってはいない。しかし、従来の人工物のデザインと知的人工物のデザインとでは”かたちづくる”ための技術に違いがある。情報処理系やネットワーク系の技術が多くの人工物に装備された結果、ユーザーが利用する人工物の”はたらき”が広がる一方、これをコントロールする為のインタフェースが必要となり、適切なインタフェースをつくりだす技術が必要となっている。

---両角 清隆 先生

宇宙のイメージを、居ながらにして掌のなかで経験してしまうような時代。わたしたちの時代は、まさにピクチャープラネットの時代といっていいのではないだろうか。そこには見るという行為が、身体的な移動の経験と切り離されて、独立してしまう危険が常にある。宇宙船のなかの椅子に縛りつけられたまま宇宙の果てのイメージを見続けるエリーのように、映像の前のわたしたちの身体は、永続的な拘束状態に陥ってしまう可能性がある。

わたしたちは、今こそ、もういちど「映像を見る」という行為を、自分自身の身体に戻って考えてみる必要がある。

---港 千尋 先生

上の港先生の文にあがっていた「身体」という概念と関係の深い「フィジカル」、「インタラクティブ」という言葉も情報デザイン学科を説明する上で欠かせないキーワードだろう。従来のデザイン/アートで利用されてきたマテリアル、メディウムは人間の行為に対しての即時的なレスポンスが豊潤なものが少なかった。「コンピュータ」の誕生によってこのレスポンスもデザイン/アートの対象とするのは自然な流れだし、また希薄になった素材感や身体性を取り戻そうとするのも、人間の活動そのものを扱っている情報デザイン学科にとっては探求すべき問題だと思う。

話はだいぶ逸れてしまったが、僕が情報デザイン学科とは何かと考えるとき、今現在の理解だと「人間の活動そのものをデザイン/アートの対象として扱い、活動の可能性を広げることを試みる場」という先ほどの須永先生の言葉を殆ど引用したものがしっくりくる。これは従来のデザイン/アートへのアンチテーゼだと思うし、語弊があるかもしれないが思想なのだと思う。思想だからこそ、情報デザイン学科の外(従来のデザイン/アート←決して悪い意味はないです)でも取り込まれていくのはごく自然な流れなのではないだろうか。風のうわさで、グラフィックデザイン学科や、プロダクトデザイン学科でも「情報デザインやります」って耳にするのはそういうことなのかなと勝手に考えている。

最近驚いたことで就活でプロダクト専攻の人たちと一緒に実習を受けたときに、彼・彼女たちは情報デザイン的(とりあえずこう書いておく)な考え方を普通に実践していたことがあった。

その時に思ったことを、mixiの日記に書いていたので抜粋。

彼・彼女らは僕らが情報デザインと呼んでいるものを普通に実践している。
もちろんプロダクトデザインもできる。
こうやって分野を分けて話すのもどうかとは思うが、
最終的なアウトプットとしての提案に生じた差は
知識のバックグラウンドの差でしかなかったような気がします。
僕がデジタルメディアの知識/勘に通じていたことは
プロダクト専攻の人たちの素材の知識/勘にそのまま当てはまる。

そう考えると、情報デザイン学科の作品には総じてデジタルメディアを扱ったものが多く、また情報デザインコースの作品でサービスの提案を主軸に置いたものが多いのも人間の活動をデザインするが故か、と勝手に納得。

あと、(今度詳しく書くかもしれないが)近年デザイナーの仕事の分業化が進んでいるように見える。だから(これは甘い考えなのかもしれないけど)、情報デザインコースが提案がメインでアウトプットが弱いのは未来を見越してのことなのかもしれないと楽観視してみたりする。だが、個人的にもクリエーションとデザイニングは切っても切り離せないものだと思うので、この風潮はあまり好ましいとは思えない。
しかし、情報デザインコースの末端に居る自分の言葉では全然説得力がない…

長くなったが最後は引用で締めくくろうと思う。「idd.txt」のイントロダクションより須永先生の言葉である。これは情報デザイン学科で情報芸術コース/情報デザインコースの2つのコースが(良い意味で)混在することを切に願ってやまないごく少数の人たちならグッとくる言葉ではないでしょうか。

1998年5月

精一杯のそれぞれの工房づくりが始まり、その起源から
御互いの活動を覗き込む。
他の専門にいる人々の仕事を、
本当に見ることの驚きをたしかめながら、
八王子キャンパスの真新しいデザイン棟で

詳しくは「idd.txt」を読んでくださいませ。
これも研究室で「ください」って言えばたぶんもらえると思います。

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