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mail Context Map 制作背景

はじめに

マス・インフォメーションの視覚化(ヴィジュアライゼーション)は、サイエンスの分野で古くから実践され、多くの成果をあげてきました*1
またインタラクションデザインの分野でも、有用な活用事例を見る機会が増えており、多くの可能性を秘めている分野です*2
その実践の多くは、デジタルメディアでの広告表現や、ユーザーインターフェイスに利用されています。
ここではSNS、メッセンジャー、メールなどのデジタルメディアにおけるコミュニケーションでのビジュアライゼーションの可能性を探ります。

*1
インターネットの各ノードを視覚化する試み。
http://www.lumeta.com/mapping.html

*2
ビジュアライゼーションをウェブサイトのナビゲーションに利用した例。
http://www.thebrain.com/

コミュニケーションのコンテキストの視覚化

情報(Information)の動詞であるinformは、「伝える」という意味の他に「形づくる」という意味も持ちます。
informとは私たちの脳へインプットされたバイナリとしてのデータを、テキストや画像へと変換するような行為であり、形態や意味を持たないものに名前を与え、明確な定義を行うことです。また、その形づくった情報を他者へと伝える行為です。
情報を私たちは会話として、手紙として、図やイラストで描いて示したり、身振り手振りや表情によって、必死に相手に伝えようとします。

デジタルメディアでのコミュニケーションにおいて、ヴィジュアライゼーションを行うことは、現実世界でのコミュニケーションのクオリティを、デジタルの世界で再現しようとする試みの一つです。
また、現実では不可能であった私たちの頭の中にあるイデアとしてのリンゴ*3の交換を、デジタルにおいて実現しようとする試みでもあるのではないかと思います。
しかし、私たちは頭の中に描いたとおりに情報を他者へ伝えることは、困難なことをよく知っています。
図やイラスト、アニメーションとしてそれを表現したり、ボディラングエッジによって必死に伝えようとするのは、本質的な情報を他者と共有することが、それだけ難しいことを知っているからです。
私たちができるのは、コミュニケーションにおけるコンテキスト(文脈)を、共有することであって、そのコンテキストから相手が伝えようとしていることを察して、頭の中で再現しようとすることです。

*3
プラトンのイデア論における共通意識としてのリンゴ。
リンゴは個々によって色も形もまったく同じ物はない。しかし、これらをみな同じくリンゴと呼ぶ限り、そこには全てのリンゴを包括する物がなくてはならない。この包括の概念を『イデア』と定義する。

メールの経由した経路の視覚化

*4
世界の海底ケーブル網。
http://www.telegeography.com/

インターネットは、局所のネットワークの集合です。
私たちが普段ケーブルを通して家族や友人と行うような情報のやり取りは、世界中のあらゆる場所で行われており、それらを総括してインターネットと呼びます。
インターネットはグローバル(世界的規模)でのコミュニケーションですが、ローカル(部分)のコミュニケーションの集合としての側面も持ちます。
また、サーバーやルーターの存在する場所の多くはアメリカ合衆国や日本、ヨーロッパ諸国などの先進国と呼ばれる国々に集中しています。
日本からヨーロッパの特定の都市にメールを送る場合には、必ず太平洋海域を通る海底ケーブル*4と、アメリカ合衆国内のサーバーを経由する必要があります。
通信の多くは、限られた先進国の国々の間で行われており、例えば南アフリカ共和国/ケープタウン〜東京間の通信は非常に僅かです。
本来ならば場所や地域を意識させないインターネットですが、実際には政治的な理由や国の発展状況が深く関係しています。

このアプリケーションは、メールの経由した経路という日常では目にする機会のないインターネットでのコミニケーションのコンテキストを視覚化します。
場所や時間を選ばないコミュニケーションの手段であるメールが、如何に時間や場所に制約のあるインターフェイス(海底ケーブル、サーバー、ルーター、etc)によって成り立っているのかをダイレクト見せます。
インターネットの物理的な制約をメールの受信という日常的な行為から体験することでコミュニケーションにおける自分と他人との距離感を再確認します。

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